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同級生の再起にまつわる話 ブログトップ

薄っぺらい奴ら [同級生の再起にまつわる話]

仕事とは直接関係のない事を書く。
しょうもない感情論みたいな話で全くくだらない。

 訳ありでそれまで18年間営業していた和食店を閉め,移転した以前の同級生の事をこれまでに何度かのエントリーで書いた。
 
 移転にあたり少々寂しい気分になったのはその男の同級生で尽力してくれた人の大変少ない事だった。
 いろんな作業の合間合間に雑談する中で,その男は以前の同級生の名前を色々挙げては俺はあいつの面倒を見てやっただのこいつとはツーカーだっただのと垂れ流していたが結局のところ自発的に手伝いに現れた者など誰もいなかった。
 職業人としての能力は必ずしも愛すべき人間性の持ち主である事を意味しない。

 詳述しないがこの男の人間性には問題点がある。いざというときに協力者が全然現れないのはその反映であるように俺には見える。
 しかし人間,大体の輩は臭いものには蓋をしながら生きていきたい。この男も恐らく例外ではない。
いざとなったら以前の同級生は誰も力を貸してくれない自分からは目をそむけて生きていきたいのだろうな。

 本人の内面に倣うように周辺の人間模様はやや寒々しい。
あるとき,その男は以前の同級生から電話をもらったと俺に嬉しそうに話しかけてきた。手伝える事は何でも手伝うから声をかけてくれと言われたのだそうだ。
 しかし準備期間中に俺がその同級生を見る事はただの一度もなかった。俺は本業そっちのけで,ほぼ出突っ張りだったので(しかも一円の儲けにもなっていないどころか全て持ち出しである),大風呂敷を拡げたその同級生との間で準備期間中にどんなやり取りがあったのかは知らないが少々複雑な気分ではあった。

 機材の移設や設備工事の施工が押し気味だったある時,それは本当に猫の手も借りたいような場面だったので俺はつい,店主であるその男に電話をくれた同級生の事を尋ねてみた。随分でかい口を叩いていたようだがただの一度も手伝いに現れないのは何故なのか。
 店主はうつむき気味で言葉だけでも充分有り難かったと漏らした。その時の複雑な表情を俺は多分この先長く覚えているだろう。

 オープン直後のしばらくはその店の様子は静かだったがある程度の日にちが経つにつれてお客さんの入りは段々賑やかになってきた。その事自体はご同慶の至りと言っておこう。
 その後少しくして,店の主と俺と件の威勢のいい事を仰っていた同級生はとある店に晩飯を喰うために落ち合った。
大風呂敷の主は嬉々として店の主と再会にあたっての高揚した気分を分かち合い,カウンターにとなり合った客には自分がこの店の主とは同級生にして友人なのだと語りかけ,俺からの伝聞を繋ぎ合わせて店の移転に関わる山あり谷ありの物語を急ごしらえで頭の中で組み立ててはさも自分がその当事者として奮戦したかのような言いっぷりで滔々とまくしたてはじめた。

 俺はそれを少し離れたところからしらけた気分で聞き流し,身振り手振りを交えて当事者気取りの大興奮で声を張り上げる大風呂敷君に冷めた視線を送る。次いで俺の視線はカウンターの反対側でホラ話に盛り上がる彼らを見、我が意を得たりと腕組みをしながら笑顔で相づちを打つ店の主へと移る。
 主は主で,半年近くも前に俺に余りに暑くて体調が悪くなるとか何とか泣きついてきて俺に中古のエアコンを取付けさせ,その工事代は未だに塩漬けのまま何喰わぬ顔を決め込んでいる人物だ。

 物質的にも心情的にも,俺は彼らに利用されているのが実相なのだな,と俺は内心独りごちる。
店の主はこの先不誠実に俺への支払いをごまかし続ける。
大風呂敷君はこの先自分が関わっていなかった移転引っ越しドラマをあっちこっちでご開陳してはしゃぎたがる。
 予め予測していたとは言え、全ての不利益も不愉快さもこういう連中と関わり続けてきた俺自身に帰属するのは間違いのでぼやいたところで仕方のない話ではある。
 人間関係を金に置き換える事を何とも思わない奴だとか、他人の営みを簒奪しては自分の手柄話として吹聴したがる奴は実にうようよいる、そういう教訓を得,そういう人種の生態をつぶさに見る事が出来た。強いて言えば今回はそれが収穫だったと言えなくもない。
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カンボジアに行こうぜ! [同級生の再起にまつわる話]

 昨日からこっち,俺の修理はやる事なす事何もかも裏目に出てしまい失敗続きなので本日の俺は結構凹んでいる事を白状しておく。

 本日のメニューの最後は某総合病院食器洗浄機の修理で,コンベアーのフライトが幾つか破損しているのだが手持ちの交換部品はなく,取り寄せとなるので現調だけで終わりとなった。
 
 帰りがた,今月15日にグランドオープンとなった同級生の店に立ち寄った。配管工事を行ったときに取付けた混合栓の吐水パイプが短いので使い勝手が良くなく,交換して欲しい旨の希望が数日前にあったので晩飯がてら覗いてみた。
 店内には以前の店からの馴染み客と思しき方々が数名,結構いい調子でやっていた。ラストオーダーに近い時間帯だったので徐々に引け気味といったところ。
 俺は主の目を盗んで厨房に入り込み,こそこそと吐水パイプを取り替えてからタダの晩飯にありつかせて頂いた。
 丼飯の上に焼き鳥が乗っかっていてゴマとアサツキを散らした上からだし汁をかけたそれは何という名前なのか知らないが無闇とうまかった。俺は吐水パイプを持ってきて取付け,奴は俺の晩飯をこしらえ,これは一種,原始共産制というか貧乏人同士の物々交換経済ではないかと屈折した笑いに浸る。

 馴染みのお客さんが引けて二人になった店内で,俺も奴も,大していい事のない人生だよな,と、どちらからともなくぼやきが出た。いろんな意味で先が見えない。
 人が野放図になり過ぎて商売がどんどんやりづらくなってくるという点で俺と彼の意見は一致を見た。クソ忙しくなるばっかりで,どんどん消耗していく一方で,どうしたもんだか・・・・

 いよいよとなったら、身の回りを全部,きれいさっぱり始末してカンボジアにでも行こうぜ。機械設備屋も日本食の飲食店も引っ張りだこらしいぜ,と俺は持ちかけた。
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 呑気に暮らせるし,凍え死ぬ心配もないし,いいんじゃねえのか。地雷でも踏んでくたばってもまあいいか、もはや自分の人生にはそれほど大した未練はないと俺は大真面目に考えておるのだ。

 それを持ちかけると彼の表情ははっきりと明るくなった。何かしらの逃げ道を用意しておく事で幾らか気楽になれる。これはいつの間にか身に付いた俺の経験則である。
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本日プレオープン [同級生の再起にまつわる話]

 ガキの頃からの幼馴染みの新店舗は本日プレオープンで,俺も一応はお招きに与る運びとなった。
何せ低予算の現場なので持ち出しだの手弁当だのでやりくりをつけなければならずここ一ヶ月半ばかりは日曜祝日の休みも返上な上に遠出のスケジュールが重なったり夜間工事が連発したりで正直なところ体力的には結構きつかった。施工そのものも宿題が残っているのだがひとまず業務はできるレベルにまではこぎ着けたのでオーナーには申し訳ないが見切り発車ってところだ。

 俺の事などここではどうでも良い。本題は同級生の事だ。
本人の承諾もなしに個人的な事情にどこまで踏み込んで良いのか心許ないが当たり障りのない範囲で書いておく。
 以前書いたように彼は板前で,俺個人の気分を抜きにしてもかなりの腕前だった。『だった』と過去形で書かなければならないのはある事情で彼は左半身に障害を持つ身の上になってしまったからだ。
 かつてその男は河豚を引かせたら俺の住む土地では右に出るものがいないほどの腕前だった。百合根を裏ごしして作る蒸し物は大した評判を取った。他にも色々,とにかく腕については文句なしの人物だった。俺の住む土地で和食の料理人の中では誰知らぬ者とていない立ち位置だ。

 機械頼みにできない手作業が多いだけに和食の場合は身体的な障害が与える影響は中華や洋食よりも大きい。
 リハビリ期間中は自分のお店は休業せざるを得なかったのだが,身体は以前と全く遜色なく機能するには至らず,営業を再開させるにあたってはかなりの葛藤があったように見えた。
 紆余曲折を経て再開の決心がつき,再び暖簾がかかるようになってから少しして俺は同じく同級生である知人と一緒にある晩彼の店を訪れた。

 再開後の店はやはり以前に比べると心なしか客足が落ちているように見えた。
その時期の諸般の事情については色々とデリケートな側面があるのでここでは書かない。世間の冷酷さを思い知る局面は俺にも過去に於いてあったがその時の彼も寒々しい風景に直面していたのだろうという察しはついたとだけここでは書いておく。

 その日,店内には主である件の同級生と俺と別の同級生との三人だけがいた。
最近どうよ,みたいな話から始まって色々無難な雑談に興じながら出てきた最初の料理は厚めに切った河豚を軽く湯びきしたものだった。
 もう,前みたいな仕事はできないけどこういう喰い方でも結構旨いんだ。あんまり見てくれは良くねえけどな。と,主は入り組んだ感情を仄めかせて苦笑いした。
 何度も書くように俺は特段食べ歩きが好きなわけではないし美食家でも何でもないが、その河豚料理には何かしら胸に響くものがあった。一緒にいた同級生も同じような印象を受けたのではないかと思う。

 業種は異なるが,同じ職人として俺はいずれ彼が新しい局面に踏み出すに違いない,今は身体的なハンディと折り合いをつけるために調理師として方向をやや変える必要があり,何かを模索してる時期なのではないかと思えた。
 同級生という身びいきを抜きにしても彼がこのまま萎んでいくとは考えられなかった。奴はいつか今とは違うやり方で復活するのだろうという大した根拠もない確信が俺にはあって、できればその過程を見届けておきたいという気になったのがその晩,丁度一年と少し前の話だ。

 備忘録としてこの辺の経緯はおいおい書き残しておこうと思う。何だかんだ言って,こういう一種浪花節がかった人生模様が俺は嫌いではない。

(追記)
 本日は日曜日で,俺は久しぶりにお休みな訳で,呑気な日曜日の午前中にこのテキストをダラダラと書きながら夕方のお招きに備えていたのだがそこに突然,某総合病院から緊急の修理依頼が飛び込んできた。蒸気配管のバルブがぶっ壊れてライスボイラーが送汽されっ放しなので大至急との事。
 たまの休みくらい感慨に耽りたいもんだぜ,ちっとは俺の安息ってやつにも配慮してもらいたいもんだっ!
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思い出せない [同級生の再起にまつわる話]

 先月からこっち、俺はとある金にならない現場の施行中である。
金にならないことがはなっからわかりきっていて、なおかつ持ち出しは続き、現場は進行中である。

 儲からない。下手をすれば持ち出しがそのまんま回収できないかもしれない。それでも現場は進む。そういう時間が一つくらいはあってもいい程度に俺のこの稼業にもささやかながら余裕が生まれてきたということか。
 
 何を隠そう、依頼主は俺の同級生だ。
同級生は板前で、かれこれ20年近く前に開業した和食店のオーナーだが、ある事情があってそれまで営業していた店を移転することになった。
 そして奴は、俺ほどではないにせよ金がない。貧乏オヤジ同士が肩寄せ合って新店舗の造作中という訳だ。その辺のいきさつは事情が許せば追々書いていこうと思う。

 友人の現場というのはなかなかはかどらないものだ。何故かというと一服する休憩時間がやたらと多く雑談の時間が無茶苦茶に長いからだ。
 効率は全然良くないがそういうユルユルな調子でもなんとか今のところは食えているのだからまあいいと勝手に納得しているがまるっきり無益な訳でもない。

 俺は先週の日曜日、ある知人とある和食店で晩飯を食った。
特段、凄いことをやっている訳でも有名でもないが結構商売としてはうまくいっているだろうと思われる店だ。何とかセットというメニューを俺とその知人はオーダーした。サラダと茶碗蒸しが付録でついてくる。お値段は¥1850なり。

 サラダといってもキャベツの千切りに毛の生えたようなものだし茶碗蒸しには銀杏ではなくて栗が入っている。何故だか大豆も入っていた。どうでもいいことだが。
 にぎり寿司天ぷらがあったのだがそれ以外に重箱に入っていた何品かの食い物がどうも思い出せない。二日かそこらで俺はそのとき食べたものの全部を思い出せなくなっていた。
 俺はさほど上等な頭の持ち主ではもちろんないにせよ、人並み程度の記憶力はあったと自覚しているのだがどうにも思い出せない。

 同級生と現場で雑談中に俺はその話をした。俺もそろそろ老境にさしかかったのかと俺は同級生にこぼしたのだった。

 「客も店も、『寿司、天ぷら、茶碗蒸し』和食っていやあそればっかりだ、ケッ!バカが!」
同級生は開口一番そう吐き捨てると、一つためになる話を俺に授けてくれたのだった。それは大体、こんな内容だったように覚えている。

  食べたものが記憶に残っているという事は良くも悪くも強い印象を受けたのであって、美味い不味いのもの差しで言えば余程美味かったかその逆かのいずれかだ。
 直近に食べたものを思い出せないということは強い印象は受けなかったという事だ。言い換えるとそれは大して特徴のない食い物だったのだ。どうでもいい食い物だったのだ。それは決して記憶力の減退とは言い切れないところがある。おまえ(ここでは俺)はにぎり寿司と天ぷらは覚えているがそれではそのタネは何だったか,一つ残らず思い出せるか?

 俺は全部を思い出せなかった。
そうだろうよ,と,彼は肩をそびやかした。
 そういう店っていうのは万事につけてそんなもんだ。俺には大体想像がつくぜ。どんな食材を使ってるのか,どんなやり方で調理しているのか,中の調理師がどんな仕事を身につけているのか。あんまり内幕をばらすような事は言わないでおくけどな。

 その男の現場を撤収しながらどこかで晩飯を喰うかという話になった時,同級生は片付けをしながらその,話題であった店はよそうぜと言い出し、俺もそれには同意した。格別不味かったとか店の雰囲気が良くなかったというわけではないのだが何となく行く気にはなれなかった。
 うまく言い表す事はできないが,業種の如何を問わず,客に何の印象も与えない店というのはある意味悪印象を与える店以上にナントモな存在ではないかと思い始めている。
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